麦とろの日
6月16日は「麦とろの日」。「むぎ(6)・とろ(16)」と読む語呂合わせから制定されたそうです。ご存じの通り「麦とろ」は麦飯にとろろをかけて食べる料理です。
山芋は長芋・大和芋・自然薯などの総称で、これらをすりおろしたものを「とろろ」と呼びます。
とろろはシンプルに醤油だけで味付けをしてもいいのですが、天然の山芋は粘りが強いので、醤油や味噌をベースにした出汁でのばし、麦飯にかけて食べます。みなさんはどんな味付けにしていますか。私の友人の家では鯖で出汁をとり、骨を取り除いた身も一緒に擦るそうです。彼女の家では鯖煮を作る日は、一緒に麦とろも作っていたそうです。これは遠州(静岡県西部地方)の作り方と聞いています。
私の実家では麦とろを作るのは父の担当でした。麦とろの日の夕方は居間に大きなすり鉢を置き、子どもたちが鉢を支えてゴリゴリと擦りおろしていました。卵を割り入れてなじませ、少しずつ醤油ベースの出汁を混ぜ、まろやかなとろろになっていきました。皮膚の弱い人だったから、腕のあたりの肌が赤くなっていたことを思い出します。これは山芋の皮の近くにあるシュウ酸カルシウムの仕業で、針状の結晶が皮膚に刺さって痒みを引き起こしているからです。対策としては手に酢水をつけてから山芋を触るといいと思います。また痒みが出てしまったら、こすらずに酢水やお湯で洗い流すのが良いです。
味噌ベースの麦とろも私は好きです。歌川広重作の浮世絵風景画の傑作「東海道五十三次」の丸子宿(鞠子宿)は「名物とろろ汁」の立て看板がある茶屋が描かれています。その歴史ある茶屋の丁子屋さんのとろろ汁(この地域では「麦とろ」を「とろろ汁」と呼んでいます)は自家製味噌が使われていて、醤油とは違った深みとコクがあります。
山芋(自然薯)は滋養強壮の効能から「山菜の王者」や「山のうなぎ」と称されていて、東海道を歩く旅人にスタミナがつくと珍重されていました。
かつて旅人が麦とろを食べ、スタミナをつけて難所を越えていたように、お父さんも仕事の難所を越えようとしているかもしれません。もうすぐ父の日、がんばっているお父さんにすり鉢を支えてもらい、麦とろを一緒に作ってみてはいかがでしょうか。今回はお子さんも作れるようにレシピの材料に、味噌汁(濃いめ)と記しています。計量しなくても一緒に味見をしながら作ればいいと思います。
疲労回復効果が期待できる豚味噌と彩りのよいレタスを添えればバランスも良くなります。
そうそう。ふだんキッチンに立たない父が、なぜ麦とろだけは担当していたかというと、山芋の痒みに弱い母の代わりに作っていたからなのです…自分も痒かったのにね。(笑)麦とろの日に父の愛情を思う私です。
レシピ
【材料】3~4人分
- 米 2合
- 押し麦 45g
- 山芋(大和芋・自然薯など) 200g
- 味噌汁(濃いめ) 適量 100~150ml
- 卵 1個
- 豚薄切り肉 200g
- 808ファクトリーレタス(フリルレタス) 3枚
- A(味噌 大さじ1 酒 大さじ1 砂糖 小さじ1 ごま油 小さじ1)
- サラダ油 大さじ1/2
- ニンニク 1片分
【作り方】
- 炊飯釜に洗った米を入れて2合の目盛りまで水を入れる。押し麦を加え2倍の水(90ml)を足し、30分程度吸水させて炊飯する。
- 山芋のヒゲは火で炙り、皮を剥いて(剥かなくても可)おろし金ですりおろす。あればすり鉢に入れてすりこぎで擦り、滑らかになったら卵を加えて混ぜる。冷めた味噌汁を2~3回かにわけて入れ混ぜる。
- フライパンにサラダ油、みじん切りにしたニンニクを入れて中火で熱し、食べやすい大きさに切った豚肉を炒める。混ぜたAを回し入れて炒める。
- 器に麦飯を入れとろろをかけ、千切りにしたレタス、味噌豚をのせる。
■レシピ協力:きたじまよりこ(スタイリング・撮影・コラム)